一遍上人語録
道具秘釈(どうぐひしゃく)
南無阿弥陀仏。一遍の弟子、まさに十二道具を用ゐるの意(こころ)を信ずべし。
一 引入(ひきいれ)
南無阿弥陀仏。無量の生命、名号法器たるを信ずる心、これ即ち無量光仏の徳なり。一 箸筒(はしづつ)
南無阿弥陀仏。無辺の功徳、衆生の心に入るを信ずる心、これ即ち無辺光仏の徳なり。一 阿弥衣(あみぎぬ)
南無阿弥陀仏。善悪同じく摂する、弥陀の本願を信ずる心、これ即ち無礙光仏の徳なり。一 袈裟(けさ)
南無阿弥陀仏。苦悩を除くの法は、名号に対(なら)ぶるものなきを信ずる心、これ即ち無対光仏の徳なり。一 帷(かたびら)
南無阿弥陀仏。火変じて風と成り、化仏来迎したまふを信ずる心、これ即ち炎王光仏の徳なり。一 手巾(しゅきん)
南無阿弥陀仏。一たび弥陀を念ずれば、即ち多罪を滅するを信ずる心、これ即ち清浄光仏の徳なり。一 帯
南無阿弥陀仏。廻光囲繞して、行者の身を照らすを信ずる心、これ即ち歓喜光仏の徳なり。一 紙衣(かみこ)
南無阿弥陀仏。行住坐臥、念念に臨終を信ずる心、これ即ち智慧光仏の徳なり。一 念珠(ねんじゅ)
南無阿弥陀仏。畢命を期とし、念念に称名を信ずる心、これ即ち不断光仏の徳なり。一 衣
南無阿弥陀仏。この人、人中の芬陀利華なるを信ずる心、これ即ち難思光仏の徳なり。一 足駄(あしだ)
南無阿弥陀仏。最下の凡夫、最上の願に乗ずるを信ずる心、これ即ち無称光仏の徳なり。一 頭巾(ずきん)
南無阿弥陀仏。諸仏の密意にして、諸教の最頂なるを信ずる心、これ即ち超日月光仏の徳なり。本願の名号の中に、衆生の信徳あり。衆生の信心の上に、十二光の徳を顕はす。他力不思議にして、凡夫は思量し難し。仰いで弥陀の名を唱へて、十二光の益を蒙るべし。
南無阿弥陀仏〈一切衆生、極楽に往生せむことを〉
弘安十年三月朔日 一遍
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