一遍上人語録
門人伝説
門人伝説79
また云(いわく)、名号には領せらるるとも、名号を領すべからず。およそ万法は一心なりといへども、みずからその体性をあらはさず。我目をもて、わが目を見る事を得ず、又木に火の性有りといへども、その火その木をやく事えざるがごとし
鏡をよすれば、我目をもて我目を見る、これ鏡のちからなり。鏡といふは、衆生本有の大円鏡智の鏡、諸仏己証の名号なり。しかれば、名号の鏡をもて、本来の面目を見るべし。故に観経には「如執明鏡自見面像《明鏡を執りて、自ら面像を見るが如し》」と説けり。
又別の火をもて木をやけば、すなはちやけぬ。今の火と木中の火と別体の火にはあらず。然れば万法豊かならず、因縁和合して成ずるなり。その身に仏性の火有りといへども、われと煩悩の薪焼滅する事なし。名号の智火のちからをもて焼滅すべきなり。浄土門に、機を離れて機を摂するといふ名目あり。これをこころえ合わすべきなり。
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